の中へ入って来た。
 座が定《き》まってさて挨拶! という時に要介の機転、床の間に立ててあった例の門札を[#「門札を」は底本では「門礼を」]、恭しく抱えて持って来るや、前へ差し出しその前に坐り、
「実は其《それがし》先生お屋敷へ、本日参上いたしましたところ、江戸へ参ってご不在との御事。と、いつもの悪い癖が――酔興とでも申しましょうか、悪い癖がムラムラと起こりまして、少しく無礼とは存じましたが、門弟の方へ一応断わり、この大門札[#「門札」は底本では「門礼」]ひき外し、旅舎まで持参いたしました、がしかし決して粗末にはいたさず、床の間へ立てかけ見事の筆蹟を、打ち眺め居りましてござります。が、それにしてもこの門札を[#「門札を」は底本では「門礼を」]、ひき外し持参いたしましたればこそ、かかる旅舎などへ先生ほどのお方を、お招きすること出来ました次第、その術策|的中《あた》りましてござるよ。ハッハッハッ」と笑ったが、それは爽かな笑いでもあった。
 と、多四郎もそれに合わせ、こだわらぬ爽かな笑い声を立てたが、
「その儀でござる、実は其《それがし》所用あって江戸へ参り、三日不在いたしまして、先刻帰宅い
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