のだが。……しかるに源女殿のそういう秘密を、わし[#「わし」に傍点]の外にもう一人、同じように知っている者がある。他でもない水品陣十郎じゃ」
こう云って来て要介は、眉をひそめて沈黙した。
剣鬼のような吸血鬼のような、陣十郎という男のことを、思い出すことの不愉快さ、それを露骨に現わさしたところの、それは気|不味《まず》い[#「不味《まず》い」は底本では「不味《まずい》い」]沈黙であった。
浪之助も陣十郎は嫌いであり、嫌い以上に恐ろしくもあり、口に出すことさえ厭であったが、しかし源女や要介が、どういう関係からあの吸血鬼と、知り合いになったかということについては、窺い知りたく思っていた。
それがどうやら知れそうであった。
そこで更に固唾を呑む気持で、要介の語るのを待ち構えた。
6
「今から十月ほど前であったよ」と、要介は話をつづけ出した。
「信濃方面へ旅をした。武術の修行というのではなく、例によっての風来坊、漫然と旅をしたまでだが沓掛《くつかけ》の宿で一夜泊まった。明月の夜であったので、わしは宿《やど》を出て宿《しゅく》を歩き、つい宿外れまでさまよって行った。と、歌声が聞こえてき
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