話が聞かれるのである。浪之助は思わず居住いを正し、緊張せざるを得なかった。
 中庭に小広い泉水があり、鯉が幾尾か泳いでいたが、時々水面へ飛び上った。それが田舎の古い旅籠屋の、昼の静かさを破壊するところの、たった一つの音であった。
 と、要介は話し出した。
「武蔵という国は承知でもあろうが、源氏にとっては由縁《ゆかり》の深い土地だ。源氏の発祥地ともいうべき土地だ。ここから源氏の諸豪族が起こった。秩父庄司《ちちぶしょうじ》、畠山重忠《はたけやましげただ》、熊谷次郎直実《くまがいじろうなおざね》等、いずれも武蔵から蹶起した武将だ。……がわしにかかわる[#「かかわる」に傍点]事件は、もっと昔に遡らなければならない。……これは誰もが承知していることだが、後冷泉天皇の御宇《ぎょう》にあって、奥州の酋長|阿部《あべ》の頼時《よりとき》が、貞任《さだとう》、宗任《むねとう》の二子と共に、朝廷に背いて不逞を逞ましゅうした、それを征したのが源|頼義《よりよし》、そうしてその子の八幡太郎義家――さてこの二人だが奥州征めの往来に、武蔵の国にとどまった。今日の国分寺村の国分寺、さよう、その頃には立派な寺院で、堂
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