角の、これは小川村の入口にある、この村一番の旅籠屋の、小紅屋まで歩いて来た。
「お帰り」と番頭や婢達《おんなたち》が、これも怪訝そうな顔をして、大門札を[#「大門札を」は底本では「大門礼を」]抱えた要介達を迎え、玄関へ頭を並べたのを、鷹揚に見て奥へ通った。
2
中庭を前にした離座敷――この宿一番の座敷らしい――そこの床の間へ大門札を[#「大門札を」は底本では「大門礼を」]立てかけ、それを背にして寛《ゆるや》かに坐わり、婢の持って来た茶を喫しながら、要介は愉快そうに笑っていた。
その前に浪之助はかしこまっていたが、これは随分不安そうであった。
「先生」ととうとう浪之助は云った。
「これは一体どうしたことで?」
「…………」
愉快そうに笑っている。
「武芸指南所の門札は[#「門札は」は底本では「門礼は」]、商家の看板と等しなみに、その家にとりましては大切なもの、これを外されては大恥辱……」
「ということは存じて居るよ」
「はい」と浪之助はキョトンとし、
「それをご承知でその門札を[#「門札を」は底本では「門礼を」]……」
「さよう、わしは外して来た」
「はい」と又もキョトンとし、
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