分が!」
「なに親分が? 林蔵がか?」
「へい、林蔵親分が、カ、街道で、あそこの街道で……タ、高萩の猪之松と……」
「うむ、高萩の猪之松と[#「猪之松と」は底本では「猪の松と」]?」
「ハ、果し合いだい、果し合いだい!」
「む――」と呻くと振り返り、要介は街道の方角を見た。
旅人や百姓の群であろう、遠巻にして街道に屯し、じっと一所を見ている光景が、要介の眼に鮮かに見えた。彼等の見ている一所で、林蔵は怨ある猪之松と、果し合いをしているのであろう。要介も以前から林蔵と猪之松とが、勢力争い激甚であり、一度は雌雄を決するてい[#「てい」に傍点]の、真剣の切り合いをやるべきことを、いろいろの事情から知っていた。
(これはうっちゃって置かれない。林蔵を見殺しにすることは出来ない。聞けば高萩の猪之松は、逸見《へんみ》多四郎から教えを受け、甲源一刀流では使い手とのこと、林蔵といえどもこの拙者が、新影流は十分仕込んで置いた。負ける気遣いもあるまいが、もしも負れば師匠たる拙者の、恥にならないものでもない。林蔵と猪之松との果し合い、考えようによれば逸見多四郎と、この秋山要介との、果し合いと云うことにもなる
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