しん》と廻っている。
どっと喝采が見物の中から起こった。
しかしどうしたのかその一刹那、ポタリと独楽が、掌から落ち、源女は放心でもしたように、桟敷の一所を凝然と見詰めた。
2
恐怖がその顔に現われている。
(どうしたんだろう?)と驚きながら、源女の見詰めている方角へ、浪之助も眼をやった。
(や)とこれも驚いた。
そこに、桟敷に、見物にまじって、榊原|式部少輔《しきぶしょうゆう》様のお長屋の庭で、老武士を相手に試合をしていた、陣十郎という壮年武士が、舞台を睨《にら》むように見ているではないか。
単なる浪之助の思いなしばかりでなく、陣十郎の眼と源女の眼とは、互いに睨み合っているようであり、源女が独楽を掌から落とし、放心したように茫然としたのも、陣十郎の姿を認めたからであると、そんなように思われる節があった。
(二人の間には何かあるな)
そんなように思われてならなかった。
「弘法にも筆のあやまり、名人の手からも水が洩れる、生独楽を落としました源女太夫のあやまり、やり直しは幾重にもご用捨……」
床から独楽を拾い上げ、顫えを帯びた含み声で、こうテレ隠しのように口上を述べ、源女が芸
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