なくも発見した。が、その直後に起こった事件――鴫澤庄右衛門を討ち果したことから、江戸にいられず旅に出たため、源女のその後の消息については、確かめることが出来なかった。
その源女の歌声が、こんな所で聞こえたのであった。
(どうしたことだ? どうしたことだ?)
不思議なことと云わなければならない。
(あの女を再び手に入れることが出来て、あの歌の意味を解くことが出来たら!)
その時こそ運命が――解いた人の運命が、俄然とばかり一変し、栄耀栄華を尽くすことが出来、至極の歓楽を享けることが出来る!
(どうでもあの女を手に入れなければ!)
だが彼女はどこにいるのだ?
分を秒に割った短い間だ! 時間にして短いそういう間に、陣十郎の脳裡に起伏したのは、実にそういう考えであった。
その間彼は放心状態にあった。
何で主水が見逃がそうぞ!
一気に盛り返した勇を揮い、奮然として切り込んだ。
またも鏘然太刀音がした。
放心状態にあったとはいえ、剣鬼さながらの陣十郎であった。何のムザムザ切られようぞ!
受けて一合!
つづいて飛び退いた、飛び退いた時にはもう正気だ! 正気以上に冴え切っていた。
(こやつを一気に片付けて、源女の在所《ありか》を突き止めなければならない!)
「ヤ――ッ!」と掛けた物凄い掛声!
つづけて「ヤヤ――ッ、ヤヤ――ッ、ヤヤ――ッ!」
先々の先の手一杯! さながら有段者が初心者を相手に、稽古をつけるそれの如く、主水が撃とう切ろう突こうと、心組む心を未前[#「未前」はママ]に察し、その先その先その先と出て、追い立て切り立て突き立て進んだ。
またもや主水は薮際まで詰められ、眼眩みながら薮の裾を、右手へわずか廻り込もうとした時、天運尽きたか木の根に躓《つまず》き、横倒れにドッと倒れた。
「くたばれ!」
シ――ンと切り下した!
11[#「11」は縦中横]
シ――ンと切り下ろした陣十郎の刀が、仆れている主水を拝み打ちに、眉間から鼻柱まで割りつけようとした途端、日の光を貫いて小柄が一本、陣十郎の咽喉へ飛んで来た。
「あッ」と思わず声を上げ、胸を反らせた陣十郎は、あやうく難を免れたが、小柄の投げられた方角を見た。
十数間のかなたから、一人の武士が走って来る。
「む!……秋山! ……秋山要介!」
いかにも走って来るその武士は、今朝になって眼醒めて見れば、
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