》の一連《ひとつら》が通っていた。花吹雪が、二人の身を巡った。
「勘兵衛!」と、不意に老人が叫んだ。「天国《あまくに》の剣を奪ったのも汝《おのれ》の筈じゃ! それをこの身に!」
(天国?)と、頼母は、ヒヤリとし、恍惚の境いから醒めた。
(この老人も、天国のことを云う!)
父、忠右衛門が、横死をとげ、自分が復讐の旅へ出るようになったのも、元はといえば、天国の剣の有無の議論からであった。頼母は、天国の名を聞くごとに、ヒヤリとするのであった。
(紙帳から出て来て、俺に体あたり[#「あたり」に傍点]をくれた武士も、天国のことを云ったが、薪左衛門殿も、天国のことを……)
頼母は、薪左衛門を見た。薪左衛門は眠っていた。眠ったままの言葉だったのである。
五郎蔵の賭場
こういうことがあってから、三日経った。
ここ、府中の宿は、火祭りで賑わっていた。家々では篝火《かがりび》を焚き、夜になると、その火で松明《たいまつ》を燃やし、諏訪神社の境内を巡《まわ》った。それで火祭りというのであるが、諏訪神社は、宿から十数町離れた丘つづきの森の中にあり、その森の背後の野原には、板囲いの賭場《とば》
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