の出来ない希望《のぞみ》を持って、永久諸国を流浪するであろう左門の姿は、だんだん小さくなって行った。
山査子《さんざし》の藪の中から、その左門の姿を恐ろしそうに見送っているのは二人の武士であった。片眼をつぶされた紋太郎と、片耳を落とされた角右衛門とであった。
「こう醜い不具者《かたわもの》にされましては、将来《このさき》生きて行く気もいたしませぬ」と怨めしそうに云ったのは紋太郎であった。しかし角右衛門は案外悟ったような口調で、
「いやいやこの刀傷がものを云って、今後はかえって生活《くらし》よくなろうぞ。我々は、松戸の五郎蔵親分に腕貸しいたし、刀傷を受けました者でござると、諸方の親分衆のもとへ参って申してみやれ、頼み甲斐ある用心棒として、厚遇されるでござろう」
「なるほどのう」
「左門は我らに生活の方法《みち》を立ててくれた菩薩じゃよ……こんなご時世、食えて行けさえしたら御《おん》の字じゃからのう」
――菩薩、苦行者、左門の姿は、遙かの彼方《かなた》で、この時、カッと輝いて見えた。光明世界へ――林が途切れて、陽光の射し溜まっている箇所《ところ》へはいったからであろう。
やがて左門の姿は見えなくなった。
暗い林の中へまたはいったからであろう。
しかし、その向こうには明るい世界が!
底本:「血曼陀羅紙帳武士」国枝史郎伝奇文庫22、講談社
1976(昭和51)年6月12日第1刷発行
初出:「冨士」講談社
1939(昭和14)年9月〜12月で中絶、1970(昭和45)年「血煙天明陣」桃源社に付載して完結公刊
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:阿和泉拓
校正:門田裕志、小林繁雄
2005年11月24日作成
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