、塚の頂きに坐っているのを認め、驚き、尚よく見た。
「あッ」と典膳は思わず声を上げた。
それは、その老人が、昔の頭、――二人あった浪人組の頭の一人の、有賀又兵衛であったからである。
「オ、お頭アーッ」
と、典膳は悲鳴に似たような声で呼びかけた。
「有賀又兵衛殿オーッ」
――有賀又兵衛……現在の名、飯塚薪左衛門は、昔の、浪人組の頭目だった頃の名を呼ばれ、愕然とし、毛を※[#「てへん+毟」、第4水準2−78−12]《むし》られた鶏のような首を延ばし、声の来た方を見た。
彼の眼に見えたものは、塚の裾に、塚の岩組から、栓かのように横へはみ出している小岩、それに取り縋っている全身血だらけの武士の姿であった。
「誰じゃ?」
と云いながら薪左衛門は、立てない足を躄《いざ》らせ、塚の縁の方へ身を進めた。
「渋江典膳にござりまする。……二十年|以前《まえ》浪人組栄えました頃、組の中におりました、渋江典膳にござりまする!」
「渋江典膳? おお渋江典膳! ……存じおる! 存じおるとも! 組中にあっても、有力の人物であった! ……来栖勘兵衛と、特に親しかった筈じゃ」
「さようにござりまする。私は来栖勘兵衛お頭の秘蔵の腹心、伊丹東十郎氏は、有賀又兵衛お頭の無二の腹心として、組中にありましても、重く使用《もち》いられましてござりまする」
「伊丹東十郎? ……おお伊丹東十郎! ……覚えておる覚えておる! わしに一番忠実の男だった。……どうして今日まで思い出さなかったのであろう? ……おおそういえば、さっき聞こえて来たあの声、『秘密は剖かない、裏切りはしない、助けてくれーッ』と云ったあの声は、まさしく伊丹東十郎の声だった。……おお、俺はすっかり思い出したぞ。……あの時、二十年前、甲州の鴨屋方を襲い、莫大もない金銀財宝を強奪し、帰途、五味左衛門方を訪れ、天国の剣を強請《ゆす》り取り、それを最後に組を解散し、持ち余るほどの財を担い、来栖勘兵衛と俺《わし》と、そちと伊丹東十郎とで、この道了塚まで辿って来、いつもの隠匿所《かくしば》へ、財宝を隠匿《かく》したが……」
「その時私は、勘兵衛お頭の依頼により、素早く天国の剣を持ち逃げして、林の中へ隠れましてございます」
「財宝を隠匿《かく》したが、その時突然勘兵衛めは、伊丹東十郎を穴の中へ突き落とし、『此奴《こやつ》さえ殺してしまえば我らの秘密を知る
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