は、その苦痛は忍ばなければならなかった。もし五郎蔵一味に自分が殺されたならば、左門を討つことが出来なくなってしまうからである。今は、何を措いても、五郎蔵一味を殲滅《せんめつ》するか追い払うかしなければならなかった。それには左門からの助太刀は絶対に必要のことであった。
 頼母は勇気とみに加わり、今までは守勢の身であったのが、攻勢に出、疾風のように五郎蔵の乾児どもの中へ斬り込んだ。
 胆を奪われた乾児たちが狼狽し、散って逃げた時、
(栞殿は?)
 と、こういう場合にも、危険に曝《さ》らされている恋人のことが心に閃めき、頼母は、逃げた乾児どもを追おうともせず、身を翻えすと一気に、紙帳へ駆け寄り、左門の立っている位置とは反対の、紙帳の裏側に立ち、紙帳を背にし、もう追い縋って来た五郎蔵の乾児六、七人を前にし、構え込んだ。
 五郎蔵の乾児たちは、今は、二派に別れて立ち向かわなければならないことになった。
 十数人の乾児たちは、左門へ向かった。
 と、この時、左門の高く呼ぶ声が聞こえて来た。
「頼母殿、心得てお置きなされ! 敵大勢四方よりかかるとも、一方へ追い廻せば結局は一人でござるぞ! すなわち殿陣《しんがり》の一人が敵でござるわ!」
 この言葉を証拠立てるためらしく、左門は突き進むと、左端の一人を斬り斃し、戻りの太刀でもう一人を斬り斃し、狼狽した乾児たちが紙帳を巡って右手の方へ逃げるのを、隙かさず追い、逃げおくれた一人を、肩から背骨まで斜めに斬り下げ、紙帳の角を廻って尚追った。逃げた乾児どもは、頼母のいる紙帳の裏側まで来、そこに集まっていた七人の仲間とぶつかった。頼母に向かっていたその七人の乾児どもは、逃げて来た十数人の仲間の渦中に捲き込まれ、これも狼狽し後から左門が追って来るとも知らず、これは左手の方へ逃げだしたが、血刀を振り冠った左門の姿を見ると、仰天し、悲鳴を上げ、四方へ散り、紙帳から離れた。その乾児どもを追って、左の方へ走り出した頼母は、パッタリ左門と顔を合わせた。
「左門氏、ご助力、忝けのうござる!」
「黙らっしゃい!」
 と左門は喝した。
「貴殿と拙者とは讐敵同士! 恩には着せぬ、恩にも着たもうな!」
「…………」
 もう二人は別れていた。
 左門に追われて逃げた十数人の五郎蔵の乾児たちは、紙帳の角から少し離れた辺《あた》りで一団となり、左門を迎え撃つ姿勢をととの
前へ 次へ
全98ページ中88ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング