いた老婆に訊《き》くと、戸板を担《にな》った三人の者が、林の中へ駆け込んだと云う。
(頼母が、お浦と典膳とを戸板に載せ、生き残った俺の乾児に担《かつ》がせ、逃げたのだ)
と、五郎蔵は察した。怒りと、嫉妬とが彼を狂気のようにした。
「どこまでも追っかけ、探し出し、頼母、典膳、お浦、三人ながら叩っ殺せ!」
こうして一団は林へ駆け込み、こっちへ走って来るのであった。乾児の中には、竹槍を持っている者もあった。もう性急に脇差しを抜いて、担いでいる者もあった。武士あがりの、逞《たく》ましい顔の五郎蔵は、額からも頤からも汗をしたたらせ、火のような息をしながら、先頭に立って走っていた。
殺気は次第に道了塚と、その附近の林とに迫りつつあった。
それだのに、紙帳の中の、何んと、今は静かなことだろう! 左門の声も栞の声も聞こえず、咳《しわぶき》一つしなかった。
頼母は、そういう気味悪い沈黙の紙帳を前にして、石像のように立ち尽くしていた。構えている刀の切っ先が顫えているのは、彼の心が焦慮している証拠であった。
(何故|沈黙《だま》っているのだろう? 何が行われているのだろう? ……栞はどうしているのだ? ……いや栞は何をされているのだろう?)
恋人の栞が、殺人鬼のような左門と、紙帳の中にいる。二人ながら黙っている。何をされているのだ? もしや咽喉でも絞められて? ……
これを思うと頼母の腸《はらわた》は掻き※[#「てへん+毟」、第4水準2−78−12]《むし》られるようであった。
必死のお浦
この時、遙かの林の奥から、喊声が聞こえて来た。五郎蔵たちの一団と、戸板を置き捨て、逃げて行った二人の乾児とが邂逅《めぐりあ》い、二人の乾児によって、頼母と、お浦と、典膳との居場所を知った五郎蔵たちの揚げた声であった。
「逃がすな!」「もう一息だ!」
二十数人の一団は、藪を廻り、木立ちを巡り、枯れ草を蹴開き、無二無三に走った。
「いたぞーッ」
という叫びをあげたのは、先頭切っていた五郎蔵であった。
「左門などには眼をくれるな! 頼母とお浦と典膳とを仕止めろ!」
こう五郎蔵が叫んだ時には、長脇差しを抜いていた。
悪罵と怒号とが林を揺すり、乾児たちの抜いた、二十数本の脇差しが、湾に寄せた怒濤が、高く上げた飛沫《しぶき》のように白光った。そう、五郎蔵たちの一団は、紙帳を背後
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