と栞は云いつづけた。
「そのように不景気では、今に、鉄砲を質に置いて、五粒二朱借りるようになるぞよ、などと頬白にひやかされては、猟師としては、憤れて来ますわね」
「憤れますとも」
「でも、頬白は、普通、『一筆啓上仕る』と啼くのだそうでございます」
「物の啼き声は、聞きようによって、いろいろに取れますわい」
愛すればこそ
「蛙が何んといって啼くかご存知?」
「さあ」
「久太という小博徒《こばくちうち》が、勝負に負けて、裸体にむかれて、野良路を帰って来ると、その前を、郷方見廻りの立派なお侍さんが二人、歩いて行かれましたそうで。……すると、田圃の中から、蛙が啼きかけましたそうで。……何んといって啼いたかご存知?」
「知るわけがござらぬ」
「『あんた方お歴々、あんた方お歴々』と啼いたそうでございます」
「そうも聞こえますなあ」
「久太が通ると、また、蛙は啼きかけたそうですが、何んといって啼いたかご存知?」
「知るわけはござらぬ」
「『裸体でオホホ』と啼いたそうでございます」
「なるほど、そうも聞きとれますなあ」
「久太は怒って、蛙を捕えて、地べたへ叩きつけましたそうで。……何んといって蛙が啼いて死んだかご存知?」
「知るわけはござらぬよ」
「『久太アー』と啼いて死んだそうでございます」
「あッはッはッ」と左門は、爆笑した。「『キューター』……あッはッはッ」
爆笑してから、ハッと気がついた。
(俺は幾年ぶりで、気持ちよく、腹の底から、何んの蟠《わだかま》りもなく、笑っただろう?)
そうして、彼の気持ちは、快く爆笑させてくれた栞に対して、感謝しなければならないようなものになっていた。
(妾、どうして今日は、こう何んでも、気安く思うことが云えるのだろう?)
と、栞は栞で、自分ながらその事が、不思議なような気がした。(やはり、お父様のご病気がお癒りになったからだわ。……そうして、頼母様が、今日あたり、帰っておいでになるからだわ)
――それに相違なかった。それだから、心が喜悦に充ちてい、何んでも云え、何んでも受け入れることが出来、何んでもよい方へ解釈することが出来るのであった。
また二人は、しばらく沈黙して、向かい合っていた。
左門は、いつか、肘を枕にして横になった。
蕾を持った春蘭が、顔の前に生えていて、葉の隙から栞の姿が、簾越《すだれご》しの女のように見
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