があった。
と、その武士がツと進んだ。
「小四郎! 不破! 極悪人め! よくもお紅殿を奪ったな! 某こそは北畠秋安! 怨みを晴らしにやって来た。お紅殿を取り返しにやって来た! 観念!」
とばかり切り込んだ。
「出合え! 曲者!」と叫んだが、不破小四郎は見苦しくも、主殿をさして逃げ出した。
「逃げるか! 卑怯! 何で遁そう!」
四人を切った血刀を、頭上に振り冠った秋安は、すぐに小四郎を追っかけた。
と、その眼前へ大兵の武士が、遮るようにして現われたが、威厳のあるドッシリとした沈着の声で、
「北畠殿と仰せられるか、まずお待ちなさるよう。某事は木村常陸介、子細は見届け承わってござる。悪いようには計らいますまい」
こう云うと手を上げて制するようにした。
廊下を渡る雪燈の火
現われた武士は誰あろう、聚楽第《じゅらくだい》における第一の智謀で、かつは誠忠無双であって、しかも身分は宿老であって、その上性質は寛仁大度、この人一人があるがために、秀次の生命は保たれて居り、聚楽の生命も保たれて居ると、世評一般に云われて居るところの、木村常陸介と耳にするや、逸《はや》り切っていた北畠秋安も
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