いて、思う所を述べ出した。
「まずお聞きなさりませ」――秋安は云いつづけた。
「手頼り無いお身の上でござりましょう。では貴女《あなた》には何を措いても、手頼りになるような人物を、お求めにならなければなりません。一人ぼっちでござりましょう。では貴女は、何を措いても、一人ぼっちでないように、お務めなされなければなりません。天下は治まっては居りますものの、洛中にさえ乱暴者はいます。ましてや他国へ出ましたならば、魑魅魍魎《ちみもうりょう》にも劣るような、悪漢どもが居りまして、よくないことをいたしましょう。で、そのような危険な旅へ、好んでお出かけなさるよりも、ここに止まりなさりませ。私ことは土地の豪族で、先祖は北畠親房《きたばたけちかふさ》で、名家の末にござります。家の子郎党も多少はあり、家の生活《くらし》も不自由はせず、父は学究でござりまして、心も寛《ひろ》く親切でもあり、そうして私といたしましても、自分で自分を褒めますのは、ちとおかしくはござりますが、まず悪人ではござりませぬ。名家の遺児の貴方様を、ここでお世話をいたすことぐらいは、私の家といたしましては、何でもないことでござります。そうして
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