考え一つによって命助ける術もある。お八重、強情は張らぬがよい、この頼母の云うことを聞け! 頼母|其方《そなた》の命を助ける!」と又肉太の膝をムズリと、お八重の方へ進めて行った。

   陥穽から男が

 すると、お八重の蒼白の顔へ、サッと血の気の注すのが見えたが、
「えい穢らわしい、何のおのれに!」
 次の瞬間にお八重の口から、絹でも裂くように叫ばれたのは、憎悪に充ちたこの声であった。
「たとえ打ち首になろうとも、逆磔刑にされようとも、汝《おのれ》ごときにこの体を、女の操を許そうや! 穢らわしい穢らわしい! ……山岸主税様が隠語の執筆家《かきて》を、この八重と承知の上で、汝の許へ申し出たとか! 嘘だ、嘘です、何の何の、主税様がそのようなことをなされますものか! ……なるほど、あるいは主税様は、なにかの拍子に女猿廻しから、独楽に封じた隠語の紙を、お手に入れられたかもしれませぬが、わたくしの筆癖と隠語の文字とが、似ているなどと申しますものか! もし又それにお気附きになったら、わたしの為に計られて、かえってそれを秘密にして、葬ってしまったでございましょう! わたしに対する主税様の、熱い烈しい
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