追うかのように、覚兵衛の一味の屯している中へ、一文字に突き入った。
「しめた!」
「斬れ!」
「火に入る夏の虫!」
「わッはッはッ、斬れ、斬れ、斬れ!」
嘲笑《あざけり》、罵声《ののしり》、憎悪《にくしみ》の声の中に、縦横に上下に走る稲妻! それかのように十数本の白刃が、主税の周囲《まわり》で閃いた。
二声ばかり悲鳴が起こった。
バラバラと囲みが解けて散った。
乱れた髪、乱れた衣裳、敵の返り血を浴びて紅斑々! そういう姿の山岸主税は、血刀高々と頭上に捧げ、樫の木かのように立っている。
が、彼の足許には、死骸が二つころがっていた。
一人を取り囲んで十数人が、斬ろう突こうとしたところで、味方同士が邪魔となって、斬ることも突くことも出来ないものである。
そこを狙って敵二人まで、主税は討って取ったらしい。
地団太踏んで口惜しがったのは、飛田林覚兵衛であった。
「云い甲斐ない方々!」と杉の老木が、桶ほどの太さに立っている、その根元に突立ちながら、
「相手は一人、鬼神であろうと、討って取るに何の手間暇! ……もう一度引っつつんで斬り立てなされ! ……見られい彼奴《きゃつ》め心身疲れ
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