」に傍点]と受けながら、主税は二歩ばかり後へ下った。
 すると今度は山岸主税が、押手に出でてジリジリ[#「ジリジリ」は底本では「ヂリヂリ」]と進んだ。
 二人の眼と眼とは暗い中で、さながら燠のように燃えている。
 鍔迫り合いの危険さは、体の放れる一刹那にあった。遅れれば斬られ、逸《はや》まれば突かれる。さりとて焦躁《あせ》れば息切れを起こして、結局斃されてしまうのであった。
 いぜんとして二人は迫り合っている。
 そういう二人を中へ囲んで、飛田林覚兵衛の一味の者は、抜身を構え位い取りをし、隙があったら躍り込み、主税を討って取ろうものと、気息を呑んで機を待っていた。
 と、あらかじめの計画だったらしい、
「やれ」と大音に叫ぶと共に、覚兵衛は烈しい体あたり[#「あたり」に傍点]をくれ、くれると同時に引く水のように、サーッと自身後へ引き、すぐに飜然と横へ飛んだ。
 主税は体あたり[#「あたり」に傍点]をあてられ[#「あてられ」に傍点]て、思わずタジタジ[#「タジタジ」は底本では「タヂタヂ」]と後へ下ったが、踏み止まろうとした一瞬間に、相手に後へ引かれたため、体が延び足が進み、あたかも覚兵衛を
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