くまり、編笠をかむった顔を俯向けて、木洩れの月光に肩の辺りを明るめ、寂しそうにしているのが見えた。
「猿廻し!」と声をかけ、突然主税はその前へ立った。
「用がある、拙者と一緒に参れ!」
「あッ」と猿廻しは飛び上ったが、木の間をくぐって逃げようとした。
「待て!」
主税は足を飛ばせ、素早くその前へ走って行き、左右に両手を開いて叫んだ。
「逃げようとて逃がしはせぬ、無理に逃げればぶった斬るぞ!」
「…………」
しかし無言で猿廻しは、両手で猿を頭上に捧げたが、バッとばかりに投げつけた。
キ――ッと猿は宙で啼き、主税の顔へ飛びついて来た。
「馬鹿者!」
怒号して拳を固め、猿を地上へ叩き落とし、主税は猛然と躍りかかった。
だが、何と猿廻しの素早いことか、こんもり盛り上っている山査子《さんざし》の叢《むら》の、丘のように高い裾を巡って、もう彼方《むこう》へ走っていた。
すぐに姿が見えなくなった。
(きゃつこそ猿だ! なんという敏捷《すばしっこ》さ!)
主税は一面感心もし、また一面怒りを感じ、憮然として佇んだが、気がついて地上へ眼をやった。
叩き落とした猿のことが、ちょっと気がかりに
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