あった。
(やはり何か事件が起こっているのだよ)
 お八重は二階を見上げながら、しばらく茫然《ぼんやり》と佇んでいた。
 すると、あけられてある雨戸の隙から、薄赤い燈火《ともしび》の光が射し、つづいて人影が現われた。龕燈を持った老人で、それは「飛加藤の亜流」であった。
 飛加藤の亜流は雨戸の隙から出て、梯子をソロソロと降り出した。
 飛加藤の亜流が地へ下り立ち、お八重と顔を合わせた時、お八重の口から迸しり出たのは、「叔父様!」という言葉であった。
「姪か、お八重か、苦労したようだのう」
 飛加藤の亜流はこう云って、空いている片手を前へ出した。
 お八重はその手へ縋りついたが、
「叔父様、どうしてこのような所に……」
「わしは飛加藤の亜流なのだよ、どのような所へでも入り込まれるよ。……お前の父親、わしの実兄の、東海林自得斎《しょうじじとくさい》が極重悪木を利用し、自由に人が殺せるようにのう。……それにしてもわし達兄弟は、何という変わった兄弟であろう。徳川によって滅ぼされた、小西摂津守の遺臣として、徳川家に怨みを抱いていることは、わしも兄上も同じなのではあるが、兄上は魔神の世界に住んで、悪
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