のように見えた。
 頼母の屋敷で奪い取った、二つ目[#「二つ目」は底本では「二つの目」]の淀屋の独楽を、玩具《おもちゃ》のように両手に持った、藤八猿を背中に背負い、猿廻しのお葉がこの百姓家の方へ、野道を伝わって歩いて来たのも、ちょうどこの頃のことであった。
 離家《はなれや》の門口まで来た。
(この家じゃアないかしら?)と思案しながら佇んだ。
 藤八猿の着ている赤いちゃんちゃんこ[#「ちゃんちゃんこ」に傍点]と、お葉の冠っている白手拭とが、もう蚊柱の立ち初めている門の、宵闇の中で際立って見えた。
(案内を乞うて見ようかしら?)
 思い惑いながら佇んでいる。
 田安屋敷の乱闘のおり、幸いお葉も遁れることが出来た。でも姉のあやめ[#「あやめ」に傍点]とも、腰元のお八重とも、姉の恋人だという山岸主税とも、一緒になれずに一人ぼっちとなった。
(姉さんが恋しい、姉さんと逢いたい。主税様の行方が解ったら、姉さんの行方も解るかも知れない)
 ふとお葉はこう思って、今日の昼こっそり田安家のお長屋、主税の屋敷の方へ行ってみた。すると幸いにも主税の親友の、鷲見《すみ》与四郎と逢うことが出来た。
「馬込のこ
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