「そうなりまするとお殿様の方は、お八重様をご断念なされるので?」
「またお喋舌《しゃべ》りか」と苦笑いをし、頼母はジロリ[#「ジロリ」は底本では「ヂロリ」]と勘兵衛を睨んだ。
「性懲りもなく又ベラベラと」
「これは、えへ、えッヘッヘッ」
勘兵衛は亀のように首を縮めた。
覆面をしていた五人の浪人も、今は頭巾を脱ぎすてて、遥か末座に居並んで、つつましく酒を飲んでいる。
(八重! くれるには惜しい女さ)
ふと頼母はこう思った。
(が、独楽には換えられぬ。……それに主税というような、敵ながら立派な若い武士を、味方にすることが出来るのなら、女一人ぐらい何の惜しむものか)
その主税が主謀者となり、鷲見与四郎《すみよしろう》といったような、血の気の多い正義派の武士たちが、どうやら一致団結して、以前から頼母の遣り口に対し――田安お館への施政に対し、反対しようとしていることを、頼母は薄々感付いていた。その主謀者の主税に恩を売り、八重を女房に持たせることによって、味方につけることが出来るのなら、こんな好都合なことはないと、そう頼母は思うのであった。
「誰か参って主税と八重の様子を、それとなく見て参
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