のことであった。
(来たな、頼母め!)と主税は睨んだ。
 しかるに、部屋の中へ入って来たのは、赤いちゃんちゃんこ[#「ちゃんちゃんこ」に傍点]を着た小猿であった。
「猿!」と主税は思わず叫んだ。
 途端に、小猿は飛びかかって来た。
「こやつ!」
 しかし藤八猿は、主税の体にかかっている縄を、その鋭い歯で食い切り出した。
 どこからともなく口笛の音が、猿の所業を鼓舞するかのように、幽かに幽かに聞こえてきた。

   第二の独楽の文字

 この頃主屋の一室では、覚兵衛や勘兵衛を相手にして、松浦|頼母《たのも》が話していた。四辺《あたり》には杯盤が置き並べてあり、酒肴などがとり散らされていた。
「これに現われて来る文字というものが、まことにもって訳の解《わか》らないものでな、ざっとまアこんな具合なのだ」
 云い云い頼母は握っていた独楽を、畳の上で捻って廻した。幾台か立ててある燭台から、華やかな燈光《ひのひかり》が射し出ていて、この部屋は美しく明るかったが、その燈光《ひかり》に照らされながら、森々と廻っている独楽の面へ、白く文字が現われた。
「屋の財宝は」という五つの文字であった。
「屋の字の
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