「おおそうか、蓋なのか」と、擦ったに連れて独楽の面が弛み、心棒を中心にして持ち上ったので、そう主税《ちから》は呟いてすぐにその蓋を抜いてみた。
独楽の中は空洞《うつろ》になっていて畳んだ紙が入れてあった。
何か書いてあるようである。
そこで、紙を延ばしてみた。
[#ここから3字下げ]
三十三、四十八、二十九、二十四、二十二、四十五、四十八、四、三十五
[#ここで字下げ終わり]
と書いてあった。
(何だつまらない)と主税は呟き、紙を丸めて捨ようとしたが、
(いや待てよ、隠語《かくしことば》かもしれない)
ふとこんなように思われたので、またその紙へ眼を落とし、書かれてある数字を口の中で読んだ。
それから指を折って数え出した。
かなり長い間うち案じた。
「そうか!」と声に出して呟いた時には、主税の顔は硬ばっていた。
(ふうん、やはりそうだったのか、……しかし一体何者なのであろう?)
思いあたることがあると見えて、主税はグッと眼を据えて、空の一所へ視線をやった。
と、その視線の遥かかなたの、木立の間から一点の火光《ひかり》が、薄赤い色に輝いて見えた。
その火はユラユラと揺れたようであったが、やがて宙にとどまって、もう揺れようとはしなかった。
(こんな夜更けに御用地などで、火を点《と》もすものがあろうとは?)
重ね重ね起こる変わった事件に、今では主税は当惑したが、しかし好奇心は失われないばかりか、かえって一層増して来た。
(何者であるか見届けてやろう)
新規に得た独楽を袖の中へ入れ、足を早めて火光の見える方へ、木立をくぐり藪を巡って進んだ。
火光から数間のこなたまで来た時、その火光が龕燈の光であり、その龕燈は藪を背にした、栗の木の枝にかけられてある。――ということが見てとられた。
だがその他には何があったか?
その火の光に朦朧と照らされ、袖無を着、伊賀袴を穿いた、白髪白髯の老人と、筒袖を着、伊賀袴を穿いた、十五六歳の美少年とが、草の上に坐っていた。
いやその他にも居るものがあった。
例の猿廻しと例の猿とが同じく草の上に坐っていた。
(汝《おのれ》!)と主税は心から怒った。
(汝、猿廻しめ、人もなげな! 遠く逃げ延びて隠れればこそ、このような手近い所にいて、火まで燈して平然としているとは! 見おれ[#「見おれ」は底本では「見をれ」]、こやつ
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