紋付、年恰好は二十五六、筋肉逞しく大兵肥満、威圧するような風采である。小兵で痩せぎすで蒼白くて商人まる出しの京伝にとっては、どうでも苦手でなければならない。
「手前滝沢|清左衛門《せいざえもん》、不束者《ふつつかもの》にござりまするが何卒《なにとぞ》今後お見知り置かれ、別してご懇意にあずかりたく……」
「どうも不可《いけね》え、固くるしいね。私《あっし》にゃアどうにも太刀打ち出来ねえ。へいへいどうぞお心安くね。お尋ねにあずかりやした山東庵京伝、正に私でごぜえやす。とこうバラケンにゆきやしょう。アッハハハハどうでげすな?」
「これはこれはお手軽のご挨拶、かえって恐縮に存じます」
「どう致しまして、反対《あべこべ》だ、恐縮するのは私《わっち》の方で。……さて、お訪ねのご用の筋は? とこう一つゆきやしょうかな」
「は、その事でござりますが、手前戯作者志願でござって、ついては厚顔のお願いながら、ご門下の列に加わりたく……」
「へえ、そりゃア本当ですかい?」
「手前お上手は申しませぬ」
「それにしちゃア智慧がねえ……」
「え?」と武士は眼を見張る。
「何を、口が辷りやした。それにしても無分別です
前へ 次へ
全24ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング