カと入って行った。
 フッと彼女は眼を上げた。ゾッとするような眼付きであった。
「もう不可《いけ》ない」と私は云った。
「返しておしまい! 返しておしまい!」
「売りましょう! 売りましょう! 白金《プラチナ》を!」
 ひっ[#「ひっ」に傍点]叩くように彼女は云った。
「持っていなければいいのだわ」
 彼女はフラフラと書斎を出た。電話を掛ける声がした。
 貴金属商へでも掛けるのだろう。
 彼女は書斎へ帰って来た。私と向かって腰を掛けた。だが一言も云わなかった。時々ギリギリと歯軋りをした。
 貴金属商の遣《や》って来たのは、それから一時間の後であった。
 一枚の貨幣を投げ出した。ソロモンのマークの貨幣であった。
 商人は貨幣を一見した。
「これは贋金でございますよ」
「莫迦をお云い!」と彼女は呶鳴った。
「以前一枚売ったんですよ。二つと世界にない質のいい白金! こう云って大金で買ってくれたのに!」
「本物だったのでございましょう。貴女のお売りになった白金は。これは白金ではございません」
 商人の言葉は冷淡であった。
「いいのよいいのよそうかもしれない。たくさんあるのよ。白金はね。一枚ぐら
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