して、兄事させた所の郷介法師とは、いかなる身分の大盗であろうか?
歴史にもなく伝説にもないこの不思議の大盗賊について、書き記してある書物と云えば、「緑林黒白《りょくりんこくびゃく》」一冊しかない。
で作者《わたし》はその書に憑據し、この大盗の生い立ちを左に一通り述べることにしよう。
4
「兄弟もなければ親もない。……俺は本当に孤児《みなしご》だ」
――岡郷介《おかごうすけ》はこう思って来ると、いつも心が寂しくなった。
「昨日《きのう》も戦争、今日も戦争、そうして明日も又戦争。……足利の武威衰えて以来、世はいわゆる戦国となり、仁義道徳は地に堕ちてしまった。親が子を殺し子が親を害する。恐ろしいは世の中の態《さま》だ。……親などはない方が気楽かもしれない」
――こう思うようなこともあった。
「しかし、それでは寂しいな。やはり親はあった方がいい。ああ両親《ふたおや》に逢いたいものだ」
親に対する思慕の情は捨ようとしても捨られないのであった。
「だが、それにしても俺の親は、どうして俺を振り捨て行方知れずになったのであろう? 俺は両親の顔をさえ知らぬ」
彼の心はこれを思うといよいよ寂
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