》れだけで?」
 お岩の片眼が大きくなった。

       三

「もう是《これ》で三回目だ」
 伊右衛門は却って気の毒そうに言った。「実際幽霊というような物も、一回目あたりは恐ろしいよ。二回目となると稀薄になる。三回も出られると笑い度《た》くなる。お岩さん不量見は止《や》めたがいい。四回も出ると張り仆《たお》すぜ。五回出ようものなら見世物にする。……」
 クルリと板戸を翻えした。
 一杯に水藻を冠っていた。
「俺には大概見当が付く、水藻を取ると其下に、小平の死骸があるだろう。生前間男の濡衣《ぬれぎぬ》を着せ、――世間へ見せしめ、二人の死骸、戸板へ打ち付け、水葬礼――ふん、そいつ[#「そいつ」に傍点]にしたんだからなあ。だって小平が宜《よ》くねえからよ。主人の病気を癒《なお》すは可《い》いが、俺の印籠を盗むは悪い」
 ダラダラと水藻を払い落とした。
 果たして小平の死骸があった。
 死骸はカッと眼を剥《む》いた。
「お主《しゅ》の難病……薬下せえ」
「うんにゃ」
 と伊右衛門はかぶり[#「かぶり」に傍点]を振った。
「俺は要求を拒否するよ。俺にだって薬は必要だからな」
 足を上げて板
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