のか、早く言え!」
「汝《おのれ》この場で消えてなくなれ」
「ナ、なんだと?」
「汝《おのれ》に生きていられては都合が悪いと言っているのだ」
疾風迅雷とでも形容しましょうか、怒りと憎悪《にくみ》とで斬り込んで来た、鶴吉の刀の凄《すさま》じかったことは! あやうく受け流し、わたしは木立ちの中へ駈け込みました。そのわたしを追いかけて来る、鶴吉の姿というものは、さながら豹《ひょう》でしたよ。
(駄目だ)とわたしは観念しました。(俺の手では仕止められない)
松の木を盾として、鶴吉の太刀先を防ぎながら、わたしは大音に呼びました。
「お屋敷の方々お出合い下され、江戸|柳営《りゅうえい》より遣《つか》わされた、黒鍬組《くろくわぐみ》の隠密が、西丸様お企《くわだ》ての秘密を探りに、当屋敷へ忍び込みましてござる! 生かして江戸へ帰しましては、お家の瑕瑾《かきん》となりましょう! 曲者はここにおりまする、お駈けつけ下され!」
声に応じて四方から、おっ取り刀のお侍さんや、鋸《のこぎり》や槌《つち》を持った船大工の群れが、松明《たいまつ》などを振り照らして、わたしたちの方へ駈けつけて来ました。その先頭に
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