えねば……」
 それは二人のお侍さんでした。
「居た!」
 とその中の一人が、わたしを目付けて叫び、手取りにしようとしてか組みついて来ました。(やむを得ない)と思って、わたしは竹の杖を突き出しました。もちろん急所へあて[#「あて」に傍点]たんで。かすかに呻き声をあげたばかりで、そのお侍さんは倒れてしまいました。
「曲者《くせもの》!」
 この人は斬り込んで来ました。
 でもその人も倒れてしまいました。
 わたしの突き出した竹の杖が、うまく鳩尾《みぞおち》へはまった[#「はまった」に傍点]からで。
(ナーニ半刻《はんとき》のご辛棒で。自然と息を吹き返しまさあ)
 わたしは先へ進んで行きました。
 でもわたしは気が気ではありませんでした。あの鶴吉という男が、わたしのように土塀を乗り越えて、屋敷内にはいり込んだということは、わたしにはわかっておりましたが、愚図愚図しているうちに目的を遂げて、この屋敷から脱け出されたら、一大事と思ったからです。
 わたしは先へ進んで行きました。
 すると「誰だ!」という声が起こり、つづいて「わッ」という悲鳴が起こり、すぐに「曲者!」と喚《わめ》く声が聞こえ、つ
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