なら、私と夫婦にさせようと、事実琢磨氏は考えていたそうで。ところがどうもこの拙者、葉末さんの御意《ぎょい》にかなわなかったと見え、真似事の結婚をしたばかりで――さようさようその晩に、私とそうして葉末さんとは、結婚をしたのでございますよ、さようさよう真似事のな。それをしないと大財産が、琢磨氏と葉末さんに行きませんので。……話といえばまずザッと、こんな次第でございます。――さあその後あのお二人、琢磨氏と葉末さんとは、どんなくらしをしているやら、参ったこともありませんので、とんと一向存じませんが、琢磨氏は学者で人格者、恐らく独身で書斎に籠もり、その西洋の学問なるものを、勉強していることでございましょう。ええとそうして葉末さんは、事実琢磨氏を愛していたので、西洋の言葉でいいますと――これは琢磨氏に聞いたのですが、何んとかいったっけ、プラトニック・ラヴか――心ばかりの恋をささげ、肉体は依然として処女のままで、奉仕していることでございましょう。……いや、何んにしてもあの晩は、私にとって面白かった晩で、剣侠になったのでございますからな。アッハッハッ、思い出になります」



底本:「怪しの館 短編」
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