を宙に刎ね、ドンと背後へぶっ[#「ぶっ」に傍点]倒れた。
もうその頃には旗二郎、モロにうしろへ飛び返り、以前の場所だ、建物の角、闇の中へ体を没していた。
そうしてそこから呼んだものである。「さあ来い、さあ来い! ……さあ来い、さあ来い!」ここでゆっくり[#「ゆっくり」に傍点]と、「来やアがれエーッ」
グッと引きつけた太刀の柄、丹田にあてた[#「あてた」に傍点]は中段の序、そこでもう一度、
「来やアがれーッ」
だがこんな場合にも、旗二郎心中で考えていた。「随分切った、働いた。儲からなければやりきれない、娘の婿になれるかな。ここの養子になれるかな?」
――それだけの余裕があったのである。
十一
太刀音、悲鳴、「来やアがれーッ」の喚き、十分けたたましいといわなければならない。で建っている離れ座敷の中に、一人でも人がいたのなら、出て来なければならないだろう。
ところが人は出て来ない。静まり返って音もしない。それでは誰もいないのだろうか?
いやいや人はいたのである。
しかも男女二人いた。
ここは建物の内部である。
「さあご返辞なさりませ」
こういったのは
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