え込みが見える。林といってもよいほどである。
「この屋敷へノコノコはいって行くには、俺のみなり[#「みなり」に傍点]は悪過ぎるなあ」
中身は銘《な》ある長船《おさふね》だが、剥げチョロケた鞘の拵えなどが、旗二郎を気恥ずかしくさせたのである。
とまた娘の声がした。「お礼申しとう存じます、どうぞお立ち寄りくださいまし」
「度胸で乗り込め、構うものか」
で旗二郎入り込んだが、これから大変なことになった。
五
ここは屋敷の一室である。
三十五、六の武士が、旗二郎を相手に話している。
「ようこそお助けくださいました。千万お礼を申します。あれは娘でございましてな、名は葉末、年は二十歳、陰気な性質ではございますが、その本性はしっかりものでござる。……迂濶と申せば迂濶の至りで、自分自身の屋敷の前で、かどわかされようとしましたので。とはいえどうもこの屋敷、ご承知の通り甚だ手広く、たとえ門前で悲鳴いたしても、母屋へまでは容易に聞こえず、困ったものでございます。……おおおおこれは申し遅れました、拙者ことは当屋敷の主人、三蔵《みくら》琢磨にございます。本年取って三十五歳、自分は侍
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