へ出た。蒼白い光が充ち満ちていた。丘もあれば林もあり、人家もあれば人声もした。
これぞ地下の世界であった。
眼の前にこんもり[#「こんもり」に傍点]とした森があり、一宇の神社が建っていた。
活《い》き剣《つるぎ》を祀った社《やしろ》であった。
と、忽ち松火《たいまつ》の火がこっちを目がけて走って来た。土人が二人を目付けたのであった。
「それ大変だ、逃げろ逃げろ!」
二人は急いで引き返した。階段を下り湾岸へ出、小舟の中へ逃げ込んだ。
「ヨイショヨイショ、ヨイショヨイショ」
二人は夢中で櫂を使った。
二人の少年の報告を聞くと、一同は驚喜して躍り上がった。
にわかに海軍が編成され、宝島征伐が行なわれた。
地下人どもを平らげて、完全に宝島を占領するには、それでも二十日の日数がかかった。ようやく手に入れた宝庫の中には、大和節斎が洞察した通り、黄金の貨幣や高価な器具が今の金にして五億円余あった。
日英合同の植民地は、こうして益※[#二の字点、1−2−22]繁昌した。種々の設備が行なわれ、まことに暮らしよい土地となった。政治も円満に行なわれた。
しかるにある日紋太夫は、こんな変なことを云い出した。
「俺は最近にお暇《いとま》するぜ」
「お暇ですって? 何のことです?」
来島十平太が不思議そうに訊いた。
しかし紋太夫はそれには答えず、
「首にさわっちゃいけないよ、首にさわっちゃいけないよ」
「ええええ、首になんかさわるものですか」
「ところで」紋太夫はまた云った。「人間の意志っていう奴は、実に生命《いのち》より強いものだね」
「ははあ、さようでございますかな」十平太は怪訝《けげん》そうに答えた。
「どうも近来首が痛い」
「それはどうも困りましたな」
「ナーニ、ちっとも困りゃしないよ。所期の目的はとげたんだからな」
「所期の目的とおっしゃると?」
「チブロン島の宝庫発見よ」
「それなら充分にとげられましたとも」
「で、首が痛くなったのさ」
「あなたの云うことは解らない」
「本来俺は住吉の浜で首を切られた人間だよ」
「…………」
「意志は強し! 生命《いのち》より強し!」
彼は愉快そうに哄笑した。
それから間もなくのことであったが、彼の首がポッカリ外れた。しかし一滴の血も出なかった。その切り口もスベスベしていた。
その顔もひどく愉快そうであった。島中の同志達もついに悲しむのを忘れてしまった。こうして紋太夫は死んだけれど、彼の精神は残っていた。
「意志は強し、生命より強し」こういう言葉によって残っていた。
底本:「十二神貝十郎手柄話」国枝史郎伝奇文庫17、講談社
1976(昭和51)年9月12日第1刷発行
初出:「中学世界」博文館
1925(大正14)年1月〜8月
入力:阿和泉拓
校正:湯地光弘
2005年3月15日作成
青空文庫作成ファイル:
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