士になろうと無数の騎士達は努力する。これがすなわち騎士道じゃ!」
「なるほど、説明でよく解った。いやどうも立派なものだ。いかさまそれこそ大和魂だ」
「それではそなたは大和魂で、そうしてこちらは騎士道で、土人どもに当たるとしようぞ」
「向かうところ敵はあるまい」
「そろそろ土人ども来ればよいに」
「や、にわかに明るくなったぞ」
危難を眼前に控えながら、小豆島紋太夫とホーキン氏とはお国自慢兵法話に、夢中になっていた折りも折り、薄暗かった地下道の中がカッと明るく輝いたので、驚いてそっちを眺めると、石畳が落ちて出来た穴から、松火《たいまつ》が幾本か差し出されている。土人どもが覗いているのだ。
「さてはいよいよ下りて来るな」「少し奥へ引っ込んでいようぞ」
地下道の二人は囁《ささや》き合いながら、そっと奥へ身を引いたが、ちょうど幸い左右の岩壁から、体を隠《かく》すに足りるような二つの岩が突き出ていたので紋太夫は左手の岩の蔭へ、ホーキン氏は右手の岩の蔭へ、素早く姿を隠したが、困ったことにはホーキン氏は手に武器を持っていない。酋長オンコッコに捕らえられた時、悉皆《しっかい》掠奪されてしまった。
「小豆島氏、紋太夫殿」ホーキン氏は呼びかけた。
「何んでござるな? 何かご用かな?」
「拙者、武器を持っていませぬ」
「武器がないとな。いやいや大丈夫。武器を持っている土人めを拙者真っ先に叩き斬るゆえ、そいつの武器をお使いなされ」
「これは妙案。お願い申す」
で、二人は沈黙した。じっと向こうの様子を窺《うかが》う。
と、五、六人ヒラヒラと穴から地下道へ飛んだ者がある。とまた五、六人ヒラヒラと蝙蝠《こうもり》のように飛び下りて来た。武器を持った土人どもである。すぐに彼らは一団となり、何か大声で喚きながら、地上を熱心に探し廻る。紋太夫の死骸を探すのでもあろう。死骸のないのを確かめたからか、彼らはいかにも不思議そうに顔を集めて話し合ったがややあって颯《さっ》と別れると、一列縦隊に組を組み、ここへ足早に走って来た。
「ホーキン氏《うじ》、来ましたぞ」「さようかな、それは面白い」
こちらの二人は囁き合いながら、土人の近寄るのを待っている。
土人が手に持った松火《たいまつ》の光で、地下道の中は昼のように明るく、そのため土人の行動は手に取るように解ったが、二人は岩に隠れているので、土人の眼には
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