の土人のために殺されたことには疑がいないにしても、もしやどこかに活きてはいないか? どこからか泣き声でも聞こえはしないかと、何んとなく耳を澄まされるのであった。
「もう夜も大分更けたらしい。今、少しでも眠って置かないと、明日の戦いに差し支えるだろう。眠ろう眠ろう」
 と云いながら心を落ち着け眼を閉じた時、
「お父|様《さん》! お父|様《さん》!」
 と紛れもない、ジョンの呼び声が聞こえて来た。
「おおジョンか!」
 と飛び上がり、小屋の窓を開けて見た。
 しかし戸外《そと》は月の光が蒼茫《そうぼう》と空地に流れているばかり、林や森や土人小屋は、黒く朦朧《もうろう》と見えもするがジョンらしい少年の姿は見えない。
「ジョンの事ばかり思っていたので、それでそんなように聞こえたのであろう。……殺されたジョンがこんな夜中に何んでこんな所へ来るものか」
 ……ホーキン氏は窓を閉じようとした。と、また紛れもないジョンの声が、手近の椰子《やし》の林の中から、「お父|様《さん》! お父|様《さん》!」
 と聞こえて来た。
「おお!」とホーキン氏は驚いて、林の方へ耳を澄ましたが、
「紛れもないジョンの声だ! さては向こうの林の中に捕らえられているのかもしれない。……ともかく林まで行って見よう。ジョンよ! ジョンよ!」
 と呼びながら、用心のために銃を握り、小屋から戸外《そと》へ飛び出した。
 空地を横切り部落を駈け抜け忽ち林へ分け入ったが、
「ジョンよ! 私だ! ジョンはどこにいるな!」こう呼んで耳を澄ましたが、林の中はしん[#「しん」に傍点]と寂しく、木に当たる微風の幽《かす》かな音が耳に入るばかり、ジョンの声などは聞こえようともしない。
「それではやはり空耳かな?」疑がいが心に起こった時、
「お父様! お父様! 早く来てください! 土人が私を殺します! 恐ろしいお父様!」
 こう呼び立てるジョンの声が林の奥から聞こえて来た。
「おおジョンか、すぐ行くぞよ! 土人がお前を殺すって※[#感嘆符疑問符、1−8−78] その土人を撲《なぐ》ってやれ! お父様はすぐ行くからな! その土人を撲ってやれ!」
 ホーキン氏は夢中で藪を分け、遮《さえぎ》る木立ちを押しのけ押しのけ奥を指して走り出した。
「お父様! お父様! 早く来てください! 土人は刀を抜きました。私の胸へ差し附けました!」
「神
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