の音は、忽ち諸方から響き渡り、その音に連れて土人どもは見る見るバタバタと仆れたが、彼らも獰猛のセリ・インデアン、容易に退《しりぞ》こうとはしなかった。草に伏し木に隠れ岩を楯にし頻々と毒矢を飛ばせて来る。
 その時、今度は丘の方からワーッという声が聞こえて来た。そうして毒矢が飛んで来た。
 土人は挟み撃ちを試みるらしい。
 遠征軍は隊を分かち、前後の敵に向かうことになった。そうして数人毒矢に当たったが、幸いに命は取られなかった。永い露営のその間に研究して置いた対症療養がこの時効を奏したのである。
 戦闘は発展しなかった。敵も味方も居坐ったまま矢弾《やだま》をポンポン飛ばせるばかりである。
「これはいけない」とホーキン氏は鉄砲を打ちながら考えた。
「戦いが長引けば長引くほど味方の者を損ずるばかりだ。……一方の敵を打ち破り安全の場所へ引き上げることにしよう」
 丘の土人軍を一掃し、丘を手中に納めるよう彼は全軍に命を下した。遠征隊は立ち上がり、一斉に喊声を上げながら丘へ向かって突進した。敵は頑強に手向かったが間もなく散々《ちりぢり》に逃げてしまった。
 丘を占領した遠征軍は丘の背後《うしろ》に空地があり、空地を取り巻いて土人の小屋が円形の屋根を陽に輝かせ、無数に建っているのを見て驚きもし喜びもした。
「ついでに部落も占領するがよい!」
 ホーキン氏は銃を握り自身真っ先に駈け下りた。不思議のことには部落から毒矢一筋飛んで来ない。
 部落は文字通り空虚《からっぽ》であった。
 少しの家畜と少しの食料、それを部落へ残したまま住民はすっかり逃げてしまったらしい。しかし小屋は完全であった。で、小屋にさえはいっていれば土人の毒矢を防ぐことが出来る。
「諸所へ歩哨を立てて置いて、全軍、小屋の中で休息させよう」
 ホーキン氏はそこへ気が附いた。
 十人の歩哨を十方へ配り、その後で全軍は小屋にはいった。
 不思議のことには土人どもは、追撃をして来なかった。でのびのびと遠征軍は小屋の中で休むことが出来、元気を恢復したのであった。

        十

 やがて日が暮れ夜となった。
 歩哨の数を二十人に増し土人軍の襲来に備え、その他は小屋で眠ることにした。人々は皆|疲労《つか》れていたのですぐさま深い睡眠《ねむり》に落ちたが、一人ホーキン氏は眠られなかった。考えられるのはジョンの事で、兇猛無残
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