の説に従い、島を開拓することにした。
まず住宅が作られた。
各自愉快に生活した。
予想にも増してこの島には天産物が豊富にあった。規則正しい労働と、この時代の文明から推してきわめて進んだ設備とで、彼らはドシドシ発掘した。
この間、島の土人達と、幾度か小競合《こぜりあ》いが行なわれたが、とても彼らに敵すべくもない。間もなく完全にチブロン島は彼らの手中に帰することになった。
島の政体は共和であった。第一期の大統領には紋太夫が選ばれた。選挙は毎年行なわれ、二期の大統領にはホーキン氏がなった。大和節斎は老人ではあり、且つ学者でもあったので、最高顧問ということになった。祭礼方面は土人司祭のバタチカンが司《つかさど》った。
ジョン少年と大和日出夫とは、この共和国の寵児として仲間の者から可愛がられたが、云うまでもなくこの二人はこの上もない親友であった。
二十八
平和の月日が過ぎて行った。
それは蒸暑《むしあつ》い夏の陽が、平和な島の草や木に、キラキラあたっているある日であったが、ジョン少年と日出夫とは、海岸の岩へ腰を掛け、愉快な会話に耽けっていた。
「……で、僕には不思議なのだ」ジョン少年がこう云った。
「ナーニ、ちっとも不思議じゃないよ」日出夫は笑って反対した。「要するにそれは蜃気楼《しんきろう》さ」
「蜃気楼だって? そんな筈はない。確かに僕は見たんだからね」
「でも、上陸はしなかったんだろう」
「ああ上陸はしなかった。少し先を急いだものだから」
「では確かに島があったと断言することは出来ないじゃないか」
「しかし、確かに見たんだからね」
「人間の眼というものは、案外アテにならないものでね」
「それに僕は歌声を聞いたよ。沢山の子供達が輪を作って、『いらっしゃい、いらっしゃい、いらっしゃい、夢の島絵の島お伽噺《とぎばなし》の島、いらっしゃい、いらっしゃい、いらっしゃい』ッてね、声を揃えて唄っているのを、僕はハッキリ聞いたんだが、これもやはり蜃気楼《しんきろう》かしら?」
「いやそれは空耳だよ。でなけれは聞き間違いだよ。潮の音か風の音かが、そんなように聞こえたのさ」
「でも繰り返して聞こえたがな」
「人間の耳というものは案外アテにならないものでね」日出夫は自説を曲げなかった。
ややあってジョンはまた云った。「君は伝説を信じるかね?」
「それは伝
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