加利福尼亜の宝島
(お伽冒険談)
国枝史郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)小豆島《あずきじま》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)その方|以前《まえかた》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)叱※[#「口+它」、第3水準1−14−88]《しった》
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一
「小豆島《あずきじま》紋太夫が捕らえられたそうな」
「いよいよ天運尽きたと見える」
「八幡船の後胤もこれでいよいよ根絶やしか。ちょっと惜しいような気もするな」
「住吉の浜で切られるそうな」
「末代までの語り草じゃ、これは是非とも見に行かずばなるまい」
「あれほど鳴らした海賊の長《おさ》、さぞ立派な最期《さいご》をとげようぞ」
摂津国《せっつのくに》大坂の町では寄るとさわると噂である。
当日になると紋太夫は、跛《ちんば》の馬に乗せられて、市中一円を引き廻されたが、松並木の多い住吉街道をやがて浜まで引かれて来た。
矢来の中へ押し入れられ、首の座へ直ったところで、係りの役人がつと[#「つと」に傍点]進んだ。
「これ紋太夫、云い遺すことはないか?」作法によって尋ねて見た。
「はい」と云って紋太夫は逞《たくま》しい髯面をグイと上げたが、「私は、海賊にござります。海で死にとうござります」
「ならぬ」と役人は叱※[#「口+它」、第3水準1−14−88]《しった》した。
「その方|以前《まえかた》何んと申した。海を見ながら死にとうござると、このように申した筈ではないか、本来なれば千日前の刑場で所刑さるべきもの、海外までも名に響いた紋太夫の名を愛《め》でさせられ、特に願いを聞き届けこの住吉の海辺において首打つ事になったというは、一方ならぬ上《かみ》のご仁慈じゃ。今さら何を申しおるぞ」
「いや」
と紋太夫は微笑を含み、
「海で死にたいと申しましたは、決して海の中へはいり、水に溺れて死にたいという、そういう意味ではござりませぬ」
「うむ、しからばどういう意味じゃな?」
「自由に海が眺められるよう、海に向かった矢来だけお取り払いください[#「ください」は底本では「くだい」]ますよう」
「自由に海を眺めたいというのか」
「はいさようでございます。高手小手に縛
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