って、煤払いをしたところ、なくなったと思った新鋳《しんぶき》の小判が畳の下から出て来たそうで。さあさすがの大屋さんも参りましたねえ。『あのお侍さんにあやまらなければならねえ』とその行方《ゆくえ》をさがしましたが、行方がわからない。当惑しながら日を送り、三月になるとお花見、向島《むこうじま》へお花見に行ったところ、そのお侍さんが花の下で、謡《うたい》をうたって合力を乞うていたそうで。そこで大屋の禿頭、オズオズ寄って行って、事情を話して小判を返そうとすると『エイ!』という鋭い声で。見れば大屋の首が堤の上に、ころがっていたそうで。というところへ行きたいんですが、やはり峰打ちで叩き倒したんだそうで。……しかし、それからが大変で『金がなければこそこの恥辱を受ける』とそのお侍さん、その晩大屋さんの家へ強盗《おしこみ》にはいって、大金を奪いとったのを手始めに、大泥棒になったそうです」
風呂の中の人形
「泥棒に!」
と、脅《おび》えたような声で云ったのは佐五衛門であった。でも、すぐに幾度も頷き、
「無理はない。次から次と、ひどい目にあわされれば、どんな人間だろうと……」
「おおご主人もそ
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