を冠り、緋の袍の上へ、銀と真鍮とで造った腹巻《はらまき》をしめ、濡れ烏《がらす》よりも黒い髪の毛を右と左の肩に垂らし、それを片手でなぶりなぶり小声で歌を唄うていた二十七、八の騎士の方が、男らしくてようござりました。
使女B だがあのお方の眼は、東洋人の眼のように、瞳も睫毛もまっ黒[#「まっ黒」に傍点]で、惨酷心《むごいこころ》のように思われました。
使女A そのようにおっしゃるけれど、貴女《あなた》の好きな水浅黄の音楽家の方は、口があまり大きすぎ、それにチト肥えすぎていて、何んとなく気品に乏しく見えたではござりませぬか。
使女B 気品に乏しいかは知りませぬが、その代り愛嬌がたっぷりとござりました。
使女A 惨酷心かは知りませんが、男の大事の威光がたっぷりとござりました。
女子 (窓に寄り二人の使女の口争《くちあらそい》を聞きおりしが、軽く笑い消し)お客様のお噂は、もういい加減にして止めておくれ。どのようにいいと思ったとて、所詮お前方の所有《もの》にはなるまいに。
使女B まあお嬢様のお口の悪いこと、そんなら誰の所有になるのでござりましょう。
使女A 知れたことではござりませぬか。あの方
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