が聞こえないの? そこまで届かないの? え、お姉様! 私はこんなに大きい声をして――ああ喉から赤い血が流れそうだ――こんなに大きい声をしているのに何故お返事をしてくれないの? (耳を澄ます、沈黙《サイレンス》!)ええ、ええ、私はこんなにお姉様を恋しがって呼んでいるのに、いつまでもお姉様は黙っている。……(塔を吹く風の音)風が吹いておりますよお姉様! そして大変淋しいの。……お姉様がいない故このお室《へや》はお墓の道のように淋しいのよ。いやいやいや、こんな淋しいお室に一人でいるのはどうしたって厭……お姉様、屹度《きっと》屹度私は、お姉様のおっしゃる通りにおとなしくしておりますから。歌を歌えとなら歌いますし、黙っていろとなら一日でも一年でも屹度口をききません! お姉様のおっしゃる通り、おとなしい子になりますから、いま一度っきり此処へ帰って来て下さいよう。……これ私はこんなに頭を下げて頼んでおりますよ。これがお姉様には見えないの、聞こえないの? 私はこんなに……泣きながらこれこんなに(と手を合わせ、頭を下げる)お願い申しておるのですよ! ……ほんとに、ほんとに……私は、お姉様の弟ですのに。…
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