が塔の頂きに流れている。……いいえ、外には何もありません。(と身を以て窓を蔽《おお》い)ヨハナーンや。
少年 お姉様。
女子 (淋しげに)ね、もう風も吹かないでしょう。
少年 塔の中には何がいるの?
女子 ええ。
少年 塔の中は暗いでしょう。
女子 ヨハナーンや。
少年 塔の中は暗いでしょう、恰度お墓のように。
女子 ヨハナーンや、ヨハナーンや!
少年 お姉様。(泣き声にて)お姉様、塔へ行ってはいやよ。
女子 (こらえず)ヨハナーンや、そんなことお云いでない。……いえ、いえ、塔も何もないんですよ、姉様はね、いつまでも、いつまでも、可愛いお前と一緒に居りますよ。一緒にね、一緒にね。
(場内静。羽虫ときどき青き光を掠めて飛ぶ)
女子 (少年の頭を撫でて)ヨハナーンや、昔二人で一緒にいた頃はほんとに楽しかったねぇ。あの頃のお話をしようじゃありませんか。……悲しいことや恐いことは云いっこなしにして、あの頃の楽しかったことばかりを話し合いましょうねぇ。……何故お前さんはそんなに寂しい顔をしているの、もっと悦《うれ》しそうな顔をおしなさいよ。姉様と一緒にいるんじゃないかい。ね、姉様と一緒に。(小声
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