や桂の冠! (間)紅き薔薇ではもの[#「もの」に傍点]を思わせ、憂いと恋を心に蒔《ま》いた。(間)されども罌粟畑のバイオリン! 罌粟畑のバイオリン!(と罌粟畑をすかし)心臓の血の紅《くれない》が、はてなき罪の香を帯びて、誘惑らしく咲く花畑。その罌粟畑。――そこへ二人が立ち出でた時、お前は象牙細工の手を差し出し、胸や乳房に恋を思わせ、(小声にて歌う)「抱く男のやわ肌を、燃ゆる瞳にさがさばや」……そのやわ肌をさがさんと、銀の音色を追って行った。(突然)その罌粟畑! 高殿よりして公子が弾いた、あの純潔の恋の楽、それがお前を醒《さま》したね! (突然)俺の計画《もくろみ》は崩された! (憤然と)暗と血薔薇の一曲が、死に行く人魚の恋歌に、歌い消され弾き消され、凶《よこしま》だったわが弦が、お前を誘う音を出すには、その夜に限って弱かった。(女を見)女よ! 女よ! けれどもお前はもう俺の者だ! 今はもう俺の者だ! (窓口に行き音楽堂を眺め)罪と不貞の結晶堂、弱き女の恋の墓、不幸の記憶の生きたる所。(声鋭く)領主の妻の屍の恋が、罪の結晶堂に埋めてある、見ろ! その不吉の堂内から、公子の屍が運ばれる。―
前へ
次へ
全154ページ中102ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング