するに際す。伯の旅行はビスマルク公のためにこの上もなき機会となりしがごとし。さればドイツ政府は伯のためにでき得るだけの好意を表し、この機に乗じてドイツの勢力を日本に及ぼさんことを計画したるや疑いあらず、憲法編纂の顧問数名はドイツより来たれり、法典編纂の顧問数名はドイツより来たれり、法科大学の教師はドイツより来たれり、しかして条約改正の業もまたドイツ政府において隠然これを賛助するの傾きさえありき。
 日本はすでにドイツ風なるものの流行を感じたり、しかのみならずかの井上伯はその重任たる条約改正を成就せんには欧州各国の風習を日本に入れ、欧州人をして日本をその同情国なりと思わしむるの必要を感じたり。かの十七年における清仏の戦争は、伯これを視て東西両洋の優劣を示せる最近の例証となし、とうてい尋常の手段にては外国と同等の交際をなすあたわずとや思いけん、まず日本国民を挙げて泰西風に化成するにあらざれば樽俎《そんそ》の間に条約を改正すべからずとまでに決心したるがごとし。ここにおいて日本の上流社会は百事日本風を棄てて欧州風に変革し畏《かしこ》くも宮廷内における礼式をさえ欧州に模擬したりき。これ実に明治十
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