えに父は父たらずといえども子は子たらざるべからず、夫は夫たらずといえども婦は婦たらざるべからず、兄は兄たらずといえども弟は弟たらざるべからず、これを家庭倫理の大本となす。この原則は社交の上にも移り、長幼の間、主僕の際、みな上制下服の則をもって律せられ、ついに政事の上にも移りて君臣の関係、官民の交渉また上制下服をもって通則となす。ここにおいてか社会の団結はただ圧制と服従とをもってその成立を保つというに至る。泰西にありてはすなわち然らず、およそ父子夫婦兄弟の際はつとに平等の気風を存し、社会の構成は上制下服に基づかずして左抗右抵に基づけり。この気風は社交に移りて長幼の序なく主僕の順なし、政事上にありては君臣の関係、官民の交渉、東洋のごときにあらず。
西洋奴隷制のごときもと彝倫《いりん》の思想より起こるにあらず。むしろ人間社会における強弱優劣の関係より来る、西洋に奴隷制の存せしはなお東洋に乞丐制《きっかいせい》の存せしごときのみ、その彝倫の道にありては上下尊卑を主とせずして、つねに左右平等を主とす。しかして社交には智愚貧富の差を免れず、政事には君臣上下の別自ら必要たらざるを得ず、ここにおいて
前へ
次へ
全104ページ中44ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
陸 羯南 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング