』『仏蘭西法律書』の類は『西洋事情』のごとく俗間に行なわれざるも識者の間には一時大いに繙読《はんどく》せられたり。
 この派の論者は説すこぶる高尚に傾き、かつ当時いずれも政府の顧問となり、著述講談に従事すること少なきがゆえに、その論派の強勢なる割合には民間の人心を感化したることかえって少なし、しかれども政府の当局者をして賛成せしめ、政治上および立法上に影響を及ぼしたることは国富論派の比にあらず。この論派は社交上において説を立てたることはなはだ少なしといえども、加藤氏はかの男女同権論に向かいては明らかに反対を表したり。政事上におけるこの論派の大意を見るにもとより改革論派たるに相違なきも、またあえて急激の改革説にはあらず、この論派は一方の論派のごとき反動的に出でずしてもっぱらその信ずるところを主張するものなりき、ゆえにその論旨はつねに温和着実の点に止まれるもののごとし。今、加藤氏が福沢氏に答えたる論文に付きその一部を左に挙げん。
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 先生の論はリベラールなり、リベラールはけっして不可なるにはあらず、欧州各国近世道の上進を裨補《ひほ》するもっともリベラールの功に在り、さ
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