より一の片句を竊《ぬす》み、かしこより一の断編を剽《けず》り、もってその政論を組成せんと試む、ここにおいて首尾の貫通を失い左右の支吾をきたし、とうてい一の論派たる価値あらず、かくのごときもの往々その例を見る。しかりといえどもこれ近時の政界に免るべからず、吾輩はほぼその事情を知れり、維新以来わずかに二十有三年、文化の進行は大長歩をもってしたりというといえども、深奥の学理は豈に容易に人心に入るべけんや、かつ当初十年はまさに破壊の時代にあり、旧学理すでに廃して新学理いまだ興らず、この間において文学社会も世潮渦流の中に彷徨す。幕府の時代にありて早くすでに蘭学を修め、一転して英に入り仏に入る者は、実に新思想の播布にあずかりたるや多し、しかれども充分に政理を講明して吾人のために燈光を立てたる者は寥々たり、けだし中興以来の政府は碩学鴻儒《せきがくこうじゅ》を羅し去りてこれを官海に収め、かれらの新政理を民間に弘むることを忌む。これまた一の原因たらずんばあらず。しからば政論派の不完全なるものあるまた怪しむに足らず、不完全の論派といえども人心を感化するものは吾輩これを一の論派として算《かぞ》えざるを得ず、
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