滅し、あるいは秩序を紊乱《びんらん》し、しかして国民的統一を失えばなり。
〔第三〕国民論派は社会百般の事物についてのごとく、政治法律の上についても国民的特立を必要の条件となす。けだしこの論派はつねに史蹟を考量の中に算え各国民の間に制度文物の異同あることをば確認せり、しかのみならず強固なる国民はその一国民たるの表標として特別の制度を有するの至当なるを確認せり。このゆえに代議制度はもと泰西より取りきたるにもせよ、一旦これを日本に移植する上は必ずこれに特別の色容を付し、日本国民とこの制度との密着を図らざるべからず、これまた国民論派の他論派に異なるところの特性なり。元来代議政体は英国をもってその創立者となす。しかれどもこれを仏国に移したる後はついに仏国的色容を帯び、これを独国へ移したる後はまた独国的色容を帯ぶ。しかしてその代議制度たるゆえんに至りてはみな同じ、国民論派は立憲政体を日本的にして世界中に一種の制度を創成せんことを期するものなり。
国民論派の内政旨義
立憲政体に対する国民論派が他の論派と異なるところの諸点は以上に述べたるがごとし。要するに国民論派は単に抽象的原則を神聖にしてこれを崇拝するものにあらず。まず国民の任務を確認してこれに要用なるものを採択し、もって国政上の大旨を定むるものなり。自由主義は個人の賦能を発達して国民実力の進歩を図るに必要なり、平等主義は国家の安寧を保持して国民多数の志望を充たすに必要なり、ゆえに国家論派はこの二原則を政事上の重要なる条件と見做す。あえてその天賦の権利たりまたは泰西の風儀たるがゆえをもってするにはあらざるなり。専制の要素は国家の綜収および活動に必要なり、ゆえに国民論派は天皇の大権を固くせんことを期す。共和の要素は権力の濫用を防ぐに必要なり、ゆえに国民論派は内閣の責任を明らかにせんことを期す。貴族主義は国家の秩序を保つに必要なり、ゆえに国民論派は華族および貴族院の存立に異議を抱かず。平民主義は権利の享有を遍《あまね》くするに必要なり、ゆえに国民論派は衆議院の完全なる機制および選挙権の拡張を期す。個人の力を用いてあたわざるものには干渉もとより必要なり、国家の権を施して反りて害あるものには自治もとより必要なり。国民論派はあえて抽象的理論を藉《か》り、もって一切の干渉を非し、また一切の自治を是とするものにあらず。要は国民の統一お
前へ
次へ
全52ページ中50ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
陸 羯南 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング