論派をもって専制論派または守旧論派となすことはなお自由論派を破壊論派または共和論派となせしがごときのみ。然りといえども大圜線《だいかんせん》の一断片を取りこれを枉《ま》げて別に一小圜を作るは論派の弊なり、自由論派が「主権在民」の理を唱道せしかば帝政論派もまた自ら進んで空理の競争場に入り、あえて「主権在君」の説を唱えこれに反対したり。ここにおいて改進論派はその中を執りて「主権在君民」の論を立て一方に自由論派の急激を排し、他の一方には帝政論派の守旧を撃ちたり。しかして帝政論派はこれより民間風潮の逆流に置かれて一の守旧論派と見做さるるに至れり、けだしその自ら取るところの過ちなりと言わざるべからず。
 帝政論派は大なる欠点を有せり、彼その論旨を世人に知らしめんとするよりは、むしろ他の論派に反対してこれを防御せんとしたり。言わば彼帝政論派の熱心は進撃的にあらずして防守的にあり、しかして防守の熱心は彼をして藩閥政府に対する攻撃をも防御せしめたり。彼すでに十五年の聖詔にしたがって立憲政体を是認したり。立憲政体の義においては取りも直さず責任内閣を包含せり。しかして藩閥内閣なるものの義においてはいかに弁護の労を取るも強者の権利または戦勝者の権利もしくは軍人政治の意を存せざるべからず、該論派のこれを弁護したるは実にその賛成するところの立憲政体の義に撞着せり。帝政論派はかの改進論派とともに急激の改革を攻撃して秩序的進歩を主張せり。その藩閥内閣を弁護せしは、けだし秩序的進歩を主張するがためならんか、しかれどもこれ大なる過失なりき、秩序的進歩とは貧富智愚の差を是認する自由的競争および貴賤上下の別を保持するの匡済的改革を言うのみ、けっして強者の権利、戦勝者の権利または軍人政治の類を許容するものにはあらず。
 帝政論派は藩閥内閣を弁護して「政権は口舌をもって争うべからず、実功をもって争うべし、死力を出して幕府を仆《たお》したる者がその功によりて政権を握れり、これを尊敬するは人民の礼徳なり」とまでに立言せり、これ政権を一種の財産のごとく見做したるの説なり。功を賞するに官をもってすることを是認したるなり、帝政論派の欠点実にこれよりはなはだしきものあらず。しかれども当時他の二論派が主張するところの議院内閣すなわち一名政党内閣と言えるはいかなる意義を有せしか、世人一般はいかにこれを解せしか、これ一の疑問
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